top of page

◆ジャンクアート新世代の申し子

下平 大輔(しもだいら だいすけ)。1986年長野県生まれ。スクラップパーツを再生するジャンクアーティストであり造形作家。鍛冶屋の祖父の影響を受け鉄素材の扱いを得意とする一方、動 物の骨など他素材の応用も巧み。「gt.mooコレクション08(gt.moo gallery)」や「新潟市美術展 彫刻部門」で賞を獲得し、自身で個展(『下平大輔展(羊画廊)』)も展開。TV・各種マスコミから注目を集めている。

作品作りの原点は工業高校時代。ゴミ捨て場で偶然見つけたマイクシャトルが顔に見えたことをきっかけに、鉄に対するアプローチ方法を見出す。

転換点となった作品は『Giant』(2007)。高さ20cmのスケールで、神話の巨人などが人々に与える身体的逞しさや畏怖のイメージを表現した。新たな価値の創造、情報生命体としての劇的再生。不老不死への憧れ。死に対する恐怖が和らぐ感覚。作品に対して色んな思いが渦巻き、自らの想像・限界を超えるのを初体験する。以後、芸術家として人生を歩みだす。

制作で使う素材は、何の変哲もないゴミ捨て場に散乱するジャンクパーツが主体。建築物、作業機械、自動車、バイク、電化製品など幾多の製品のパーツを収集して行なう。そして、産業社会・情報化社会を背景に、工業職人が膨大な時間と労力を注ぎ込んだ産業機械パーツのDNA(記憶)を一つの集合体として成立させ、命を吹き込む。



【寄稿】
                                                    
◆作品展望:生死を超越したカタルシス世界 奇々迫る芸術的シフトアップ 

下平大輔の作品の多くはいわゆる「ジャンクアート」だ。一目作品を見た者は、「よく出来ている」「精巧だ」という印象を抱くだろう。そんな風に「リアルなガレージキットの一種」と捉える見方は、決して間違いではないかもしれない。しかし非常に勿体無い。

彼の作品は、死生観を念頭に見ると途端に作品の深淵へ近づける。時として、鑑賞者自身の死生観を映し出す鏡にすらなり得り、「死を栄養として捧げ、生死を超越した存在」を目の当たりにできる。

作品を読み解く鍵として、「死生観」と並んで重要なキーワードは「シフトアップ」だ。シフトアップとは、マニュアル車を運転する際、ギアを入れ替える行為を指す。下平はこのシフトアッ プという行為を自らの芸術へ肉づけすることに成功した。一度「ゴミ」とみなされたジャンクパーツを、言わば細胞や遺伝子が異なる死人同士を拒絶反応なく“富める物”に変貌させる(本人をこのことを「死者の交通整理」と言う)。生死を越えた変貌の先に何が待っているのか、それは作品を見た者にしか分からない。

逆にスピードダウンするギアチェンジもシフトアップだ。作品を通じて太古の世界や無常、種の起源を感じる人もいるだろう。生物は、どこからやってきてどこで生まれたのか。さながら、生き物の生死・自然環境サイクルの一端を垣間見ているような錯覚に陥る。

また、細部の表現にも注目したい。作り上げた臓器や骨、筋肉は今にも動き出しそうな気配を醸し出す。一方、エンジンや冷却装置など可動機械の要素を組み込むことで、半生物・半機械というSF的な表現を実現。ちなみにシフトアップという言葉は、知的生命体が集団で次のステージへ進化することを指すSF用語としても使われる。下平が自らの創作過程について「進化を見守る」と表現することからも、作品理解の上で、シフトアップという言葉が多義的かつ重要な意味を持つことが認められるであろう。

彼の作品は生きた生物なのか死体なのか、はたまた機械なのか、そこに決定を下すのは難しい。むしろ「生きていると同時に死んでいる」ことを許容し、自然界のルールに相反した「生死を超越するシフトアップを施された機械ロボット」であると素直に認めたほうが良いのかもしれない。生と死をモチーフにした二律背反のキュビスム(Cubism)。精神革命。下平大輔は、人間が誰も見聞きしたことのない境地へ、生死の境界線を越えたカタルシスへ人々をいざなう。

                                                  著:エッセイスト 桜井恒ニ 

Copyright 2016 DAISUKE SHIMODAIRA

bottom of page